『アラビアの夜の種族』

アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)

アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)

古川日出男氏の作品。
数年前から気になっていたものの、何しろ長いため、ずっと読むのをためらっていました。
最近、やっとこの本に立ち向かう気力が湧いてきたので、チャレンジ。
結果、何とか読破できました。
読み終わった感想は、とにかく
よくこんな話を書いたな!
に尽きます。
細部まで書き込まれた、まさにアラビアンナイトのような世界でした。


この話は、大きく分けて、2層構造になっています。
第1層は、現実パート。
18世紀末、ナポレオンによるエジプト侵攻を阻止しようとするカイロの権力者の奴隷を主人公に、彼がナポレオンを滅ぼすために考えた「災厄の書」を作るため、夜な夜な怪しげで魅力的な語り手=夜の種族が、物語を綴ります。
ナポレオンの軍隊の侵攻と、それを迎えるエジプトの為政者の対応も詳しく描かれます。
第2層は、魔法と剣の物語。
夜の種族が語る物語という設定です。
物語の中の現実パートから1000年以上もさかのぼり、幻想的な魔法と剣と魔物の物語が展開されます。
これが、非常に魅力的でした。
史上最高にして最も忌まわしい魔術師アダームと蛇神ジンニーアの物語、そして2人の拾い子ファラーとサフィアーンの物語。
この2つが、1000年の時を越えて交わり、ついには現実パートと融合してゆく様は、本当に見事でした。


何しろ、とても長いので、読書体力のある人にしかお勧めできませんが、これは確かに素晴らしく面白いです。
自分も物語の登場人物と共に、灼熱の砂漠&魔物がうろうろする太古の神殿にいるような気分になれます。
余談ですが、私が今まで読んできた本の中でも、10位以内に入る長さ……のような気がします。
たぶん1位は『塗仏の宴(京極夏彦)』か『屍鬼(小野不由実)』か『模倣犯宮部みゆき)』だと思います。
面倒くさいので、調べてないですが。