『芝浜謎噺』

芝浜謎噺―神田紅梅亭寄席物帳 (ミステリー・リーグ)

芝浜謎噺―神田紅梅亭寄席物帳 (ミステリー・リーグ)

愛川晶さんによる落語ミステリィです。
シリーズ第2作目なのですが、例によって図書館の在庫の関係でこちらから先に読んでしまいました(笑)

主人公は26歳の女性で、彼女の夫が落語家、という設定です。
舞台は東京なので、もちろん江戸の落語です。
同じジャンルで、田中啓文さんの「笑酔亭梅寿謎解噺」というシリーズがあるのですが、こちらは舞台が大阪なので、上方落語です。
両者は、同じような題材でも主人公の名前が違ったり、サゲ(オチのようなもの)が違ったりするらしいです。
私は、落語については全くの素人なので、良くわからないですが……。
本作は、落語に絡んで謎が出てきて、主人公の夫がその謎を解きつつ、落語に新しい解釈を加えて改作する、というもので、これはとっても面白い試みだと思います。
例えば、最初の短編である「野ざらし殺人事件(とかいうようなタイトルの作品)」では、「野ざらし(とかいう落語の噺)」が取りあげられているのですが、これは、釣りに出てしゃれこうべを見つけた浪人が、しゃれこうべを供養してあげたところ、その日の夜に若い女性の幽霊がお礼にやってきた、ということを聞いた主人公が、自分も女性の幽霊にお礼をしてもらおう、と思い立って釣りに行くお話なのですが、作中の登場人物が「結局浪人の家に来た幽霊は本物なのか、それとも人間だったのか?」という問いを投げかけます。
探偵は、それについて自分なりの解釈を加え、改良版の噺を高座に掛けるのです。
といった感じで、物語の展開に非常に上手に落語を絡めています。
しかも、最後には改良版の噺も読めてしまうのです。
とってもお得です。
きっと、落語に詳しい人ならば、私以上に楽しめる作品だと思います。
もちろん、親切な解説があるので、落語を全く知らない人でも全然問題なく読めますが。


この作品、主人公の女性の考え方が26歳にしてはかなり落ち着いてしまっている(感覚的には4,50代?)ところに少々違和感を覚えてしまいましたが、それ意外はとても良かったです。
粋な江戸っ子の皆様も登場しますし。
思考と行動が老けているのは、伝統芸能の担い手である落語家の妻だからなのか?