『七姫幻想』

七姫幻想

七姫幻想

これは、とんでもない作品ですよ!
古事記日本書紀の時代、そして平安時代を経由して江戸時代までを舞台に、七人の機織姫を描いた短編集です。
一部、同じ登場人物が出てくる短編もありますが、基本的にはそれぞれのエピソードが独立しているようです。


最初の短編「ささがにの泉」と次の「秋去衣」は、時系列的にも近く、共通する人物が出てきます。
「ささがにの泉」は軽皇子の父(大君・天皇)とその寵姫である叔母(ささがに姫)の話で、密室殺人っぽい事件が起きます。
「秋去衣」は天皇崩御後の軽皇子とその妹の話で、元ネタは恋愛事件のはずなのに、かなりシリアス展開なお話でした。
その恋愛事件というのは、wikipediaにも載っていますが古事記に書かれた非常に有名な悲恋なのです。
私も昔、古事記をマンガで分かりやすく説明する本で読んだことがありました。
「秋去衣」を読んで、なるほど、そのような解釈もあるのか、と感心することしきり。
時代は平安の世に移り、「薫物合」は、清原元輔清少納言の父親!)の恋愛と、ある殺人事件が結びついたお話。
朝顔斎王」は源氏物語に登場する朝顔の斎院を絡めた、ほのぼの系の恋愛話でした。
「梶葉襲」は、七夕の夜に梅壺局で起こった不可解な女房失踪事件のお話。
「百子淵」は、ある山里で行われる、謎めいた成人の儀式に挑む少年達の姿と、儀式で起こった悲しい事件のお話。
そして、最後の「糸織草子」は、江戸時代のお話で、荒れた屋敷に暮らす高貴な血筋の兄妹を巡る悲劇を描いています。
全編に共通するのは、機を織る女性と、七夕。
そして、全ての物語を読むと、一見何の繋がりもなさそうに見える個々のお話が、実は細い糸で連綿と繋がっているのがわかるのです。
しっとりとした語り口で、人間であれば誰もが持つ負の感情をスパイスに、分かりやすく語られる王朝ミステリー。
また、最後に必ず付いている和歌が、物語の雰囲気とマッチしていて、味わい深いのです。
本当に、素晴らしいの一言に尽きます!