『山魔の如き嗤うもの』

山魔の如き嗤うもの (ミステリー・リーグ)

山魔の如き嗤うもの (ミステリー・リーグ)

三津田信三さんによる刀城言耶シリーズ第4作です。
このシリーズ、終戦後の昭和を舞台に、最初はどこからどう見てもホラーなのに、物語が終わる頃には怪奇現象の謎が解明されてきちんと推理小説になる、という離れ業を毎回披露してくれて、いつもワクワクしながら読んでいます。

今回の舞台は、東京都の山奥、神戸(こうど)地方。
神戸地方の名家に生まれ育ったものの、山の暮らしになじめず東京で教師になった若い男性が、古くから伝わる成人の儀式に挑んだところ、本当はご神体である三山を巡るはずが、忌み山とされる乎山(かなやま)に迷い込んでしまい、怪奇現象に出会います。
命からがら、乎山にぽつんと一軒だけ建てられた小屋に逃げ込んだ彼は、そこで暮らしていた一家の世話になりますが、翌朝、一家5人は謎の失踪を遂げるのです。
物語は、彼が上記のような一連の怪奇体験を綴った手記から始まります。
ちなみに彼は、この事件が原因で、すっかり精神的にまいってしまい、仕事も辞めています。
刀城言耶が寄稿している出版社に問題の手記が送られ*1、そこで手記の執筆者を救うために彼が一連の怪奇現象解明に乗り出す、というのが本作の流れです。
今まで私が読んだ2作(「厭魅」と「首無」)は、確か、刀城言耶が怪奇譚の収集に赴いた先で事件に巻き込まれる、という展開だったと思うので、本作はそういった意味で、少しだけ毛色が違うかも知れません。
そのような経緯で調査に赴いた刀城言耶ですが、問題の集落では、次々と凄惨な殺人事件が起こります。
調査を進めるうちに見えてきたのは、「乎山=金山」という図式と、金脈の魅力に取り憑かれた人々の存在でした。
果たして、一家失踪の真相とは?
連続殺人事件の真犯人とは?
そして、乎山に棲むという「山魔」の正体は……?
という感じのお話でした。


毎回思うことですが、地名と登場人物の読み方が難しくて、混乱します。
今回は特に、複数の集落に跨って三家ほど主要な家があるので、登場人物も多く*2かなり苦労しました。
最初に出てくる、ことの発端になった青年の手記も、最初のうちは怪奇現象のオンパレードで、本人はひたすら怖がって混乱していて、読むのに忍耐がいるし……*3
それでも、一度物語にはまってしまえば、ページをめくる速度にも拍車が掛かります。
刀城言耶の推理が土壇場で二転三転するのも恒例行事で、もうすかり慣れてしまって、微笑ましく読みました。
たぶん、この真相が二転三転する=手元にあるカードを組み合わせれば何通りもの推理が出来る、というのがロジック好きにはたまらないところなのでしょう。
しかし、私はは探偵が「真相はこうだ!」と指摘した時点で、「ああ、そうだったのか。スッキリ。面白かった!」と満足したいタイプなので、その後に「ああいう解釈もできる、こういう解釈もできる」と並べられても、少しうるさく感じてしまうのでしょう。
もっと考えながら本を読むべきなのでしょうが、なかなかこれが出来ないのです……。
話は変わりますが、今回はキャラが立った登場人物が多かったような気がします。
個人的には、事件の捜査を担当する刑事さんのツンデレ具合がツボにはまりました。
刀城言耶の担当編集者さんも、連続殺人が起こった家のお妾さんも、いいキャラしています。


最後にまとめですが、今回は、金山を巡る人々の妄執と、それに絡んだ殺人事件及び犯人捜しがメインで、怪奇幻想色はあまり強くない印象を受けました。
何しろ、事の発端になった一家消失事件はマリー・セレスト号で、おまけに密室で見立て殺人ですから。
今時そこまでやる?みたいな……。
まあ、時代設定は昭和なのですが。
こういう本格ミステリ色の強い作品もいいですが、次はどっぷりと古き良き日本が見せる幻想的な怪奇現象に浸れる作品がいいですね。


それにしても、講談社から出ている「凶鳥」と「密室」が気になります
図書館にないので、読めないのです。
自分で買えよ!って話ですが。
今度、購入のリクエスト出してみるか……。

*1:刀城言耶は、すっかり怪奇探偵として有名になっているので、出版社には怪奇事件解決の依頼が数多く舞い込むらしい

*2:登場人物表を見ただけで読む気力がなくなること請け合いです

*3:私は妙にさめた読み方をするので、あまりホラー向きの読者ではないようです。