『氷菓』

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)

米澤穂信さんによる「古典部シリーズ」第1作にして、彼のデビュー作でもあります。
ちなみに、私は図書館の在庫の関係で最初に『クドリャフカの順番〜十文字事件』と『遠回りする雛』を読んでしまいました。
クドリャフカの順番』は、いきなりシリーズの途中から入ったので、頭に?マークを沢山浮かべながら読んだ記憶があります。
本作を読んで、省エネがモットーの折木奉太郎くんが古典部に入った理由も分かったし、他の3人の部員が古典部に入った時のエピソードも読めたし、古典部が学園祭で出す文集『氷菓』にまつわる少しだけ悲しい物語も読めたし、非常に満足です。


本シリーズは、文化系の部活動が盛んな進学校に通う高校生の男女4人が、極めつきにマイナーな廃部寸前の古典部に入り、部活動(?)を通じて遭遇した日常の謎を探偵役の折木くんが解明する、という学園青春ミステリーです。
ところがこの探偵役の折木くんは、省エネがモットーで、座右の銘は「やらなくてもいいことはやらない。やらなければならないことは手短に」という、極めて消極的な人間なのです。
普通の探偵役ならば、進んで事件の謎を解明しそうなものですが、彼は基本的に事件解決を渋ります。
そんな彼を引きずり出す原動力になっているのが、”一身上の都合”で古典部に入部した、豪農の息女・千反田えるちゃんです。
彼女がまた強烈で、容姿はまさに深窓の令嬢、普段の態度も楚々としたものなのですが、少しでも不可解な現象に出会うと「私、気になります」と言って、謎の解明に向けて暴走する、というキャラクタなのです。
自分の周りにこういう人がいたら、少しだけウザいかも……。
いや、可愛いんですけどね、えるちゃん。
その他に、学校の歴史から社会経済まで幅広い知識を誇るデータベースにして折木くんの幼なじみである福部里志くん、やはり折木くんの幼なじみで福原くんに求愛し続けているがずっと拒まれているしっかり者で毒舌家の伊原摩耶花ちゃん、とそれぞれ個性的なメンバーが揃っています。


日常の謎系で人も死なないし、薔薇色ではなく少し灰色な学園青春ものだし(全力で薔薇色な青春ものはリア充の巣窟だし、読んでいて疲れる……)、ほっと一息つきたい時に最適なシリーズではないかと思います。
進学校なのに、学園祭が5日間もあるなんて、うらやましい限りですよ。
本作のクライマックスとも言える、古典部の文集『氷菓』と千反田えるちゃんの失踪した叔父さんを巡るエピソードについては、真相はけっこうしんみり系だったのに、最後のオチが下らなくて非常に秀逸でした。
今までシリアス路線だったのに!少しほろっとしちゃったのに!と心の中で思わず叫んでしまいましたよ。
今回得た知識をもって、『クドリャフカの順番』を再読したくなりました。
その前に、次作『愚者のエンドロール』を読まなければ。