『少女七竈と七人の可愛そうな大人』

少女七竈と七人の可愛そうな大人

少女七竈と七人の可愛そうな大人

桜庭一樹強化月間。
この本は、恋愛小説にカテゴライズされるということなので、読むのを少しだけ躊躇したのですが、帯に書いてあった「わたし、川村七竈17歳はたいへん遺憾ながら、美しく生まれてしまった」という言葉を読み、興味を持ってしまい、読むことに。
純文学は苦手なのですが、この本は少し無理してでも読んで良かったです。
とんでもないお話ですよ。


何の因果か*1不本意ながらとんでもない美少女に生まれついてしまった少女、七竈。*2
普通に考えれば、美しいのはとてもいいことなのに、彼女の暮らす小さな町旭川では、美しいというだけで周囲から浮いてしまう特殊な存在なのです。
彼女は、幼なじみで、同じく美しく生まれついてしまった少年・雪風と、孤独を分け合い、鉄道模型を収集する毎日を送っていました。
そんな彼らも、あっという間に高校3年生。
ずっと2人でいたいと願っていたのに、それぞれがそれぞれの事情で進路を選んだ結果、2人は離ればなれになることに……。
地方を捨て、都会に出て「かつて美しかったもの」になろうとした七竈。
一生を北海道で過ごそうと決意し、地元の大学に進学することになった雪風
最後の、七竈が東京に行った場面が、妙に悲しい感じでした。


個人的な印象ですが、このお話には、恋愛小説という範疇に収まらない、もっと哲学的な何かがあると思います。
もちろん、恋愛的な要素がないわけではないのですが、本質はもっと別の所にあるように感じました。
そもそも、私は恋愛小説があまり好きではありません。何となく、「恋愛」と書いておけば売れるだろう、といった風潮があるような気がするのです。
それは、ミステリにも言えることかも知れませんが……。
物語の冒頭と後半に入る、七竈の母親の物語が、何とも言えない感じで、少しだけ怖くなりました。
ああ、女は怖い!
こういうお話、そして七竈の特徴的な台詞回しは、この人にしか書けないでしょう。
七竈、十七歳の若人なのに、台詞がシェークスピアみたいなのです。
妙にはまっていますが、実際に美少女がそんな口調で話していたら、かなり変ですよ。
俄然、『赤朽葉家の伝説』が読みたくなりました。


最後に1つだけ。
北国出身の私から言わせてもらうと(上から目線!)、冬の描写に少しだけ違和感でした。
ここら辺の違和感は、お話の性質と、桜庭氏が南の方のご出身だからでしょうかね。
私も、南の方を舞台にしたお話を書け、と言われてもきっと上手に書けないでしょう。

*1:明らかといえば明らかですが

*2:この名前も正直どうかと思う。