『赤朽葉家の伝説』

赤朽葉家の伝説

赤朽葉家の伝説

桜庭一樹さんが、初期の代表作に、と書いた本らしいです。
表紙の赤が印象的です。
『少女七竈と七人の可愛そうな大人』を読んだ勢いで、思わず図書館で予約したら、すぐに順番が回ってきたので早速借りて、今週末に6時間くらいで一気読みました。


千里眼の祖母、万葉。
漫画家だった母、毛鞠。
そして、何も語るべきものを持たない私、瞳子
本作品は、鳥取の旧家・赤朽葉家を舞台に、女三代の人生を描いた作品です。
祖母の時代は「最後の神話の時代」と題して、千里眼だと言われた万葉の半生が描かれます。
ちょうど日本が、戦後から高度経済成長へと推移していく時代で、非常に活気に満ちあふれ、誰もが自分たちの生活はもっと良くなる、と信じられた時期でした。
万葉が千里眼という設定なので、かなり幻想的な雰囲気で、本当に今から60年くらいしか前じゃないの?といった感じでした。
印象的だったのは、好景気に沸く製鉄所の生き生きとした描写と、強かった男性達、そして赤朽葉家の大奥様タツによる独創的な孫達の名前でした。
何しろ、上から泪・毛鞠・鞄・孤独ですから。
続いて、「巨と虚の時代」と題して、万葉の長女で瞳子の母親、毛鞠が物語の主人公となります。
彼女は丙午の生まれで、それとの因果関係は不明ですが、とにかく血気盛ん。
レディースのチーム「製鉄天使」のトップを張って、中国地方を制圧してしまいます。
その後、レディースを引退して、少女漫画家として衝撃デビュー。
妾腹の妹・百夜に彼氏を寝取られ続けつつ*1、漫画を書き続け、結婚し、瞳子を産みます。
そして、今を生きる語り手・瞳子のもとに、物語はたどり着きます。
ここまで、読者は赤朽葉家の2世代の女性の人生を体験する訳ですが、とにかくその筆力が素晴らしいです。
全然飽きません。
まるで宮尾登美子さんのように、女性の人生を生き生きと描いています。
そして、現代……。
これまでの2世代の女性と比べて、瞳子はごく普通の女性です。
ごく平凡な学校に行き、仕事をやっても長続きせず、今は無職。家でゴロゴロし、たまにデートする毎日です。
しかし、祖母万葉の死をきっかけに、彼女の生活は少しだけ変わって行きます……。
現代パートは、少しだけミステリィタッチで、前の2パートがきちんと伏線になっていたりして、ごく普通の小説のテンションでした。
少し落差が大きいですが、現代パートがなければ、きっとこの物語は終わらなかっただろうと思います。
祖母・万葉の時代で発展し、母・毛鞠の時代でバブルを迎え、孫・瞳子の時代で衰退が始まる……。
まるで、日本経済の発展をなぞるようなお話でした。
小説としても面白いですが、日本の風俗史としても充分読めるのでは?
地方に生きる女性の人物像・地方に流れる独特の空気が、とても良く表現されていて、これはもうこの作者さんにしか書けない!と言い切ってもいいのではないでしょうか。


本作品には、素晴らしいフレーズが沢山出てきますが、最後に、孫・瞳子の台詞を書いておきたいと思います。
「ここは東京のはきだめじゃない。都会の人がやりたがらない仕事を、一見、こぎれいなオフィスを作って、地方の若者に押しつけて。景気がよくなくていい仕事がないのをいいことに、いやなことばかり地方に押しつけて。ここははきだめじゃない。地方都市には地方都市の歴史と、誇りがある」
地方都市のコンプレックスだと言われればそれまでですが、私の言いたいことを見事に代弁してくれているような気がしたのです。


p.s.
この作品が文庫落ちするときは、最近の風潮からいって、やっぱり上中下巻になるのでしょうか?
多少分厚くても、一気読みできるように1冊でまとめて欲しいです……。

*1:しかし、毛鞠には百夜の姿が見えない