『さよなら妖精』

さよなら妖精 (ミステリ・フロンティア)

さよなら妖精 (ミステリ・フロンティア)

この本は、前から気になっていたものの、基本的に青春モノが嫌いなため、読むのを躊躇していました。
しかし、桜庭一樹読書日記に出ていた*1ので、何だかきっかけを掴んだ気がして借りてみました。

本書の舞台は、1991年〜1992年頃。
高校3年生である主人公とその友人は、1991年の4月、下校途中に写真館の軒下で雨宿りをしている、外国人の少女を見つけます。
彼女の名前は、マーヤ。ユーゴスラヴィアから来たのでした。
彼女が、滞在先として当てにしていた人物が死んでいたために途方に暮れていることを知り、彼らは共通の友人である旅館の娘を紹介します。
何とか交渉がまとまり、マーヤは旅館に滞在することに。
そこから、彼らとマーヤとの2ヶ月にわたる交流が始まる……といったお話でした。
しかし、滞在も終わりに近づいたある日、彼女の母国ユーゴスラヴィアで内戦が勃発します。
心配する友人達を尻目に、マーヤは、必ず手紙を書くと彼らに約束し、帰国。
それから1年後、大学生になった主人公達は、マーヤがどこからやって来たのか、彼女との会話から推理するため、故郷の喫茶店に集まります。
何故ならば、ユーゴスラヴィアという国は、スロヴェニアクロアチアボスニア・ヘルツェコヴィナ、セルビアモンテネグロマケドニアという6つの国からなる共和国で、結局彼女はどこに住んでいるのか、聞きそびれてしまったから。
そして、その答えによっては、マーヤの身に内戦という危険が迫っているはずなのでした……。


この物語のキーとなる、マーヤという少女が、とても印象的です。
何でも不思議がり、理由を尋ねてはメモを取ります。
口癖は「哲学的意味はありますか?」
「傘をささない男」や「神社に餅を供える若者」、「真新しい墓に供えられた紅白餅」といった些細な日常の謎と、それを巡ってマーヤと主人公達との間でかわされる会話が、謎を解く重要な鍵になっています。
なかなか綺麗にヒントが散りばめられていて、最後の解決編(?)を読みながら、感心してしまいました。
とはいっても、この本は、あまりミステリーらしくありません。
どちらかというと、青春小説です。若いです。


本作で書かれている内戦を経て、ユーゴスラヴィアという国は、結局なくなってしまいました。
ユーゴスラヴィアという「7つめ」の国を愛し、政治家になりたいと言った少女と、本作の結末を考えると、何とも言えなく切ない気持になったのでした。

*1:当時の東京創元社編集部で「さよなら傭兵」というギャグが流行っていた、とかいうエピソード