『人間失格』

人間失格 (集英社文庫)

人間失格 (集英社文庫)

「あのひとのお父さんが悪いのですよ」
 何気なさそうに、そう言った。
「私たちの知っている葉ちゃんは、とても素直で、よく気がきいて、あれでお酒さえ飲まなければ、いいえ、飲んでも、……神様みたいないい子でした」


文学少女と死にたがりの道化』を読んで、思わず読みたくなり、本を探して、早速読了しました。
太宰治、特にこの作品は色々と危険*1かなと思い、ずっと避けていたのですが、確かにやばかったです。
上記の作中で遠子先輩*2も言っていますが、本当に、太宰に切々と語りかけられている様な気持ちになります。
流れるような文体で、昔の作品なのに、全然読みづらくないです。
ものすごく吸引力があって、頁をめくる手が止まりません。
文字通り、一気読みしてしまいました。

東北の片田舎で金持ちの家に生まれた主人公が、どうしても人の心というものが分からず、それを誤魔化すために周りの人間に対しては道化を演じ、違法なものに安らぎを求めて社会主義運動に逃げ、心中未遂で親に勘当され、生きていくために色々な女たちのヒモになり、酒に逃げて薬物中毒になり、最後は気が狂う、というとんでもないお話です。
でも、何故か主人公を憎めないというか、見捨てられないというか……。
たぶん、彼は、誰もが持っている心の弱さを全て集めたような人間なのでしょう。
私も、酒に逃げる所とかは全く共感できませんが、「あるある!」と思った所が何ヵ所もあります。


最後の一文を読み終わった瞬間、
「ああ、彼はこのひと言を書きたいがために、この作品を書いたのだろうか……」と感じて、思わず鳥肌が立ってしまいました。
やはり、名作は名作たる力を持っているのです。
日本人ならば、読んでおいて損はないかと思います。

*1:基本、影響されやすい人間なのでw

*2:文学少女シリーズのヒロイン、天野遠子