『斜陽』

ヤング・スタンダード 斜陽 (集英社文庫)

ヤング・スタンダード 斜陽 (集英社文庫)

私は確信したい。人間は恋と革命のために生れて来たのだ。


人間失格』を読んだついでに、前から読んでみたかった『斜陽』も読んでみました。
没落華族=ロマンです。
滅びゆく美しさです。
この、何とも言えないデカダンな空気は、平民には出せません。
太宰はこれを書くにあたって、愛人・太田静子に日記の提供を受け、それをもとに執筆したとのことですが、確かに女性的な視点を感じました。


物語の主題は、タイトルそのまま。
没落しつつある華族一家が主人公です。太宰は、チェーホフの『桜の園』の日本版を目指して本作品を書いたとか。
全て、かず子という女性の一人称で書かれており、主な登場人物は、彼女と、彼女の母親、そして弟。
かず子は、一度離婚は経験していますが、基本的に甘やかされて育ったお嬢様という設定だからでしょうか、文体が常に佐々木丸美のようなふわふわした乙女チックモード全開です。
しかし、それが独特の雰囲気を醸し出していて、非常に効果的。


かず子と「最後の貴族」たるその母親は、父を亡くし母娘二人で暮らしていましたが、生活が苦しくなってきため、東京の家を売り、伊豆の山荘に移り住みます。
最初は穏やかな日々が過ぎていたのに、戦死したと思っていた弟が阿片中毒になって帰って来たあたりから、彼らの生活がどんどん傾いてゆきます。
母の具合が悪くなり、弟はしょっちゅう東京に出かけて悪友と荒んだ生活を送り、家にほとんどいない。
かず子も、慣れない農作業や母親の世話に疲れ、少し自暴自棄になって、突飛な行動を取ってしまいます。
色々あって、最後はかず子1人だけになってしまうのですが、最後の彼女の心境は、意外と明るくて、『風と共に去りぬ』のスカーレットみたいな感じでした。
やはり女性は強いです。


一方、かず子の弟・直治は、『人間失格』の主人公みたいに描かれています。
貴族出身というのが嫌で、平民の真似をしてみたのに、結局平民にも馴染めなくて、どちらの世界にも居場所がない。
とにかく、生きているのが辛い。
戦争で「生きる最後の手段」として阿片中毒になり、帰ってきたら、今度は酒浸り。
それもこれも全て、己が貴族であるという罪悪感にさいなまれての行動で……。
根本的には、太宰と同じですよね。
私は代々由緒正しい平民なので、こういった罪悪感には全く共感できないし、酒や薬に逃げる心理も理解できません。
でも、最後に彼が残した言葉には、やはり鳥肌が立ちました。


姉さん。
僕は、貴族です。


読み終わって、意味もなく転げ回りたくなりました。
しかし、周囲が転げ回れるような状況ではなかったので、泣く泣く断念。
桜庭一樹さんが、よく読書日記で「読み終わって床を転げ回る」といったようなことを書いていますが、初めてその気持ちが分かりました。