『千年の黙』

千年の黙―異本源氏物語

千年の黙―異本源氏物語

鮎川哲也賞を受賞した、森谷明子さんの作品です。
黙と書いて「しじま」と読みます。
本当は、彼女の『七姫幻想』*1を借りようと思ったのですが、図書館の本棚に並んでいたこの本の方が気になって手に取ってみたら、何と題材が源氏物語だというではないですか!
源氏物語は、確か高校生ぐらいの時に田辺聖子さんの現代訳を読んだきり*2で、あまり詳しくはないのですが、日本人に生まれたからには読まなければ、ということで、速攻借りて家に帰ったのでした。
最近、色々と源氏づいていますしね*3


本作には、帝寵愛の猫が行方不明になった謎を解明する「上にさぶらふ御猫」と、幻の帖「輝く日の宮」が失われた謎を追った「かかやく日の宮」という中編が2本、そして題名だけで中身がない「雲隠」という帖についての短編が1本、収録されています。
ちゃんと時系列になっていて、猫のお話では紫式部は20代〜30代ですが、最後の短編では既に亡くなっていたりします。
どのお話も読み応えがあって、とても面白いのですが、中でも特筆すべきは「輝く日の宮」でしょう。
詳しいことはwikipediaの該当項目でも読んでいただくとして、ざっくばらんに書きますと、『源氏物語』には失われた帖がある、という説がありまして、本作では、その問題の帖であるとされる「輝く日の宮」は存在したという前提で、では何故失われてしまったのか?を解明します。
ちなみに、「輝く日の宮」には、現在伝わっている源氏物語では語られていない?藤壺女御と光源氏との初めての逢い引き、?六条御息所光源氏の馴れ初め、?朝顔の斎院の初登場シーン、が描かれていたとされています。
まず、紫式部は、巷でも評判の源氏物語中宮彰子(藤原道長の娘)に贈呈するため、書き上げた十一帖を綺麗に製本し、内裏へ献上します。
その本をもとに5冊の写本が作られ、それがどんどん写本されて都中に広がってゆくのですが、紫式部の女房の友人が持っていた写本は十帖だけで、彼女は、全て読んだが話が繋がらず疑問に思っていることがある、と紫式部の女房に相談するのです。
他の人からも同じような問い合わせを受けていた紫式部と女房は、これはおかしいということで調査に乗り出します。
ところが、どの段階で一帖欠けてしまったのか調査を進めたところ、浮かび上がってきたのは意外な人物で……というストーリーでした。
結果的に、「輝く日の宮」の原稿は、この世から完璧に失われてしまったことが分かるのですが、最後の終わり方はとても切ないです。


私には、原文を読めるような忍耐力も教養もないし、この本を読むまで、源氏物語の欠落部分なんて、知りませんでした。
欠けていると考えられているのは、第一帖「桐壺」と第二帖「箒木」の間らしいです。
この謎に正面から挑んだ、タイトルもそのものズバリの『輝く日の宮』という丸谷才一さんの本があるようなので、そちらも読んでみたいと思います。
こういう歴史の謎って、ロマンがあっていいですよね。
それにしても、光源氏は読めば読むほどリア充だ……。
でも、手を出した女性にはきちんと責任を持つからまだいいか。

*1:桜庭一樹さんの読書日記に出ていた

*2:しかも宇治十帖は読んでいない

*3:やる夫スレで源氏物語をやっている人がいるし、アニメ(源氏物語千年記 Genji)もやっていたし。見てないけど。