『最後のウィネベーゴ』

最後のウィネベーゴ (奇想コレクション)

最後のウィネベーゴ (奇想コレクション)

コニー・ウィリスさんの短(中?)編集です。
私、基本的にSFはあまり読まないのですが、オックスフォード大史学部の学生がヴィクトリア朝にタイムトラベルするラブコメディ『犬は勘定に入れません』を読んで以来、この人の著作は見つければ読むようになりました。
ドゥームズデイ・ブック』や『航路』のようなシリアスものも良いですが、やっぱり『犬は勘定に入れません』のような明るいコメディが好きです。


この本には、4編が収録されています。
女性がついに「アレ」から開放された時代に、ある家族(登場人物は1人を除いて全員女性!)が繰り広げるドタバタコメディ『女王様でも』、前代未聞の方法で行われたタイムトラベル実験を描くSFラブロマンス『タイムアウト』、日本製の宇宙コロニー”SONY”に宇宙人がやって来て大混乱の『スパイス・ポグロム』、そして、犬が伝染病で絶滅した時代に最後の1台となったキャンピングカーの取材をする男性を描いた表題作『最後のウィネベーゴ』。
どれも素晴らしい作品ですが、全体を通して、いかにも欧米の作家さんが書いた作品だなぁ、という感じです。
どの点が、というのは特に挙げられないのですが、とにかく雰囲気が欧米チックなのです。もちろん、良い意味で。
『女王様でも』に出てくるスーパーおばあちゃんとか、レストランで家族の会話が全然かみ合っていない感じは、たぶん、日本人作家には書けないのではないかと思います。
ちなみに私、そういうパワフルで理不尽なおばあちゃんが大好きです。
近くにいる人は、大変でしょうが……。
2番目のタイムトラベル実験のお話は、いかにも「胡散臭そう」な論理に基づいて、それっぽいけれど冷静に考えたらヘンテコな機械を使って実験をするのですが、これもやっぱり舞台がアメリカだからこういう展開になるんだろうな、と思いました。特に大学寮のくだりとか。
3番目のお話も、かなりとんでもないお話です。
宇宙人が、地球人と交渉するために宇宙コロニーにやって来て、それだけなら良かったのに、宇宙人を見るために地球から大勢の観光客がやって来たので、コロニーは大混雑。
そのコロニーの名前がSONYって(笑)
ちなみに、作中には他にも「大阪」や「銀座」や「三越」が出てきます。
コニー・ウィリスさん、日本が好きなのでしょうか?
そんななか、「天井の高い家に住んでいるから」という理由で婚約者に宇宙人を1人押しつけられた女性が主人公です。
結局彼女、その宇宙人が連れてきた言語学者と恋に落ちてしまうのですが……。
宇宙人の片言の英語がキュートだし、主人公の住むアパートの階段や踊り場を借りている人々も個性的だし、何より、宇宙コロニー”SONY”のカオスっぷりが最高でした。
最後に、表題作『最後のウィネベーゴ』ですが、これは前3作と違って、コメディではありません。
RV車がアメリカのほとんどの州で禁止され、犬は伝染病で絶滅した世界で、報道カメラマンである主人公が1枚の写真に見いだしたものとは……?
犬を2匹飼っている私としては、もう、犬が絶滅してしまった、という設定だけで悲しくなってしまいます。
最後のキャンピングカーで暮らす老婦人が、昔飼っていたチワワの思い出話をする(そして主人公が自分の飼っていた犬を思い出す)くだりなんて、涙無しにはよめません(大げさ)。
そういえば、『犬は勘定に入れません』の世界では、猫が絶滅していました。
猫がいない世界というのも、癒しがなくて辛そうです……。