『踊るジョーカー』

踊るジョーカー―名探偵 音野順の事件簿

踊るジョーカー―名探偵 音野順の事件簿

『クロック城殺人事件』でデビューした(桜庭一樹さん曰く)イケメン作家・北山猛邦さんの作品です。
キャッチフレーズは、世界一気弱な名探偵。
というのも、本作の主役たる名探偵は、引きこもりでとっても臆病な青年なのです。
そんな彼とは大学時代からの付き合いである、ワトソン役の作家(この人が視点人物)が、渋る名探偵を引きずり出して、事件を解決させるのです。
気弱って、どのくらい気弱なんだ?と気になって読んでみたら、本当に凄かったです。
とにかく、台詞に三点リーダー(……ていうやつ)が多い!
「うう……」とか「僕には……事件なんて……解決できないよ」みたいな、気弱な台詞が多い!
名探偵と言えば、基本、事件を解決するために助手的ポジションの人間を引き連れて縦横無尽の大活躍、最後は登場人物を集めて「謎は全て解けた!」とか「犯人はおまえだ!」とか決めゼリフを吐いてビシッと謎解きをする、アクティブなイメージが強いので、これはある意味革命的です。
ちなみに、引きこもり名探偵といえば、坂木司さんの『青空の卵』から始まるシリーズがあって、本作の帯を見た時に、ああ似ているな、と思いました。
しかし、あちらの名探偵・鳥井くんは、どちらかというとアクティブでアグレッシブな引きこもりで、庇う側と庇われる側も全く逆なので、全然別物……になるのでしょうか?


本作は、連作短編集なのですが、以下、各短編に対する簡単な感想を書いておきます。
・踊るジョーカー
二重の密室状態となった地下室で家の主人が殺され、被害者の息子が事件解決を依頼。
渋る音野を白瀬が無理矢理引きずり出して、お弁当持参で事件の捜査を開始。
トリックは、何というか……島田荘司氏の『斜め屋敷の殺人』を連想しました。
本質的には全然違うのですが、第一印象が似ているのです。


・見えないダイイング・メッセージ
発明家の男性が殺害され、彼しか番号を知らない金庫が残されてしまった。
現場にあったのは、彼が死に際に撮った室内風景のポラロイド写真のみ。
被害者の息子が、探偵事務所にダイイング・メッセージの解読を依頼。
早速、謎の解明に乗り出した2人だが、謎解きは難航。結局、解決したのは意外な人物で……。
う〜ん、これは……どうなのでしょう?
着眼点は面白いと思いますが、ダイイング・メッセージとしては、あまりに分かりづらくて情報伝達性に問題があるような気がします。


・時間泥棒
ある古い屋敷に暮らす姉弟が依頼主。
彼らの家から、時計が数個無くなったというのです。
警察沙汰にするほどのことでもないので、とりあえず探偵に事件の捜査をお願いしてみた、という訳。
人が死なない、日常の謎系の事件ですが、この事件はなかなか合理的な謎解きでした。
現実にもありそうです……。


・毒入りバレンタイン・チョコ
ある大学のゼミ室で、女子学生が毒入りのチョコレートを食べて、入院する。
幸い、命に別状はなかったものの、警察の捜査で、毒が入っていたのは32個のチョコレートのうち、彼女が食べた1個だけだったことが判明。
犯人は、被害者を狙って毒を飲ませたのか?
それとも、無差別にゼミ生を狙ったのか?
このトリックは、思わず、ねーよwwwと思ってしまいました。
本当に出来るのでしょうか?
一歩間違えばバカミスでは?


・ゆきだるまが殺しにやって来る
ある事件を解決した帰り道、山の中で道に迷ってしまった音野と白瀬。
折しも、日が暮れて雪が降り初め、このまま走るのは危険な雰囲気。
……と思ったら、運良く山の中に立派な屋敷を発見し、そこで一晩泊めてもらうことに。
そのお屋敷では、一人娘の結婚相手を決めるコンペが行われていた。
その課題は、何と、雪だるまを作ること。
2人の参加者がいて、彼らは晩ご飯もそっちのけで雪だるま作りに励んでいたのだが、そのうちの1人が殺されてしまった。
状況からいって、犯人は死体のすぐ近くにある雪だるまとしか思えなくて……。
このトリックも、一歩間違えばバカミスだと思います。
ていうか、実際には不可能そうです。
雪だるま、かわいいけど。


といった感じで、なかなか実験的なトリックの多い作品かと思います。
1番目と最後の短編で使われたトリックは、どれくらい再現性があるのか、ぜひ実験してみたいですね。