『切れない糸』

切れない糸 (創元推理文庫)

切れない糸 (創元推理文庫)

坂木司さんの作品です。
町のクリーニング屋さんが舞台のミステリーでした。
父親が急死したためクリーニング店を継ぐことになった主人公が、集荷先で出会う謎をメインに据えつつ、彼を取り囲む東京下町の個性的で楽しい人々の姿も生き生きと描かれています。
クリーニング屋さんの構成員が、みんなとっても良い人達で、私もこんな職場で働きたい!って感じです。
典型的な店屋の女主人タイプで、非常に合理的な理由により決まり切った朝食しか作らない母親、謎の過去を持つ腕の良いアイロン職人のシゲさん、カウンターを預かる松竹梅トリオの賑やかなおばちゃん達。
また、商店街の喫茶店で働く主人公の友人にして本作の探偵役・沢田くんが、ひと癖もふた癖もある感じで、物語を引き締めていました。
まさに理想の人間関係・商店街です。
火の用心で町内をまわったら、行く先々で接待を受けられるなんて、何という理想郷でしょうか。


肝心の謎については、けっこう綺麗にまとまっていたと思います。
しかし、あまりにもあからさま過ぎて、どうして主人公は気が付かないの?というのもありました。
謎のお客様として登場する渡辺さんの職業なんて、簡単に分かっちゃうと思うんだけどなぁ。


坂木司さんの本は、ほんと、ほんわかしたい時に読むには最適です。
登場人物があまりにもいい人ばかりなので、もう少し悪人とか嫌な人が出てきてもいいかな、とは思いますが。
そういえば、『青空の卵』の探偵役・鳥井くんは性格が歪んでいて、どちらかというと悪人、でしょうかね……?