『こころげそう』

こころげそう (光文社時代小説文庫)

こころげそう (光文社時代小説文庫)

畠中恵さんの真骨頂です。
大矢博子さんの解説がかなり秀逸。
9人の若者が出てきますが、人数が多すぎて、名前とキャラクタを覚えるのに一苦労したのが、欠点と言えば欠点でしょうか。
でも、とても面白くて良い作品だと思います。

 『大奥(1)〜(6)』

大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))

大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))

映画がもうすぐ公開される、ということで最近話題になっていますが、気になったので読んでみました。
いやぁ、深い。
至る所にドラマ版の「大奥」が透けて見えるのがまた面白くて*1、一気に最新刊まで読み切ってしまいました。
歴史上のあんな出来事やこんな出来事も、男女を入れ替えるだけでこういう解釈になるのか、というのがなかなか新鮮ですね。

高田崇史さんが、よく著作で登場人物に語らせている台詞で「歴史は勝者の都合の良いように書かれて残される(思いっきりうろ覚えの意訳ですが)」というのがあって、その言葉を頭の片隅に置いて読むと、少し違う世界が見えてくるような気がしました。
私達が今習っている歴史では、江戸時代の将軍・大名等、歴史に名前を残している人々は全員男だとされていますが、実は男名を名乗る女性だったとしたら……。
想像するだけで、面白いとは思いませんか。

*1:私の江戸時代・多くに関する知識は全てドラマに頼っている、といっても過言ではない。そのドラマもきちんと見たわけではないというのがガンですが……

 『獣の奏者1〜4』

獣の奏者 I 闘蛇編

獣の奏者 I 闘蛇編

獣の奏者 II 王獣編

獣の奏者 II 王獣編

獣の奏者 (3)探求編

獣の奏者 (3)探求編

獣の奏者 (4)完結編

獣の奏者 (4)完結編

図書館では児童書にカテゴライズされていたようだが、これは児童書じゃないだろ……というのが、正直な感想。
もちろん、面白い。
非常に面白いけれど、この物語をきちんと味わうには、人間及び人生について、ある程度の知識・経験を持ち合わせていなければ無理なような気がします。
1巻・闘蛇編と2巻・王獣編は、主人公のエリンがまだ幼いこともあり、ギリギリ子供でもいけるかな?と思いますが。

著者である上橋菜穂子さんが、4巻・完結編の後書きで書かれていたのですが、獣の奏者として物語は、最初の2巻で完結しているのだとか。
確かに、それを読んで、腑に落ちるものがありました。
3・4巻は、エリンと王獣達のその後の物語です。
触れてはいけない禁忌を犯したとき、人は、獣はどうなるのか?
人という生き物の業の深さを、物語という形で目の前に突きつけられたような気がしました。

読むと心が痛いけれど、是非色々な人に読んで欲しい物語です。

 『もえない』

もえない―Incombustibles

もえない―Incombustibles

もの凄く久しぶりに森博嗣さんの作品を読んだような気がします。
主人公は男子高校生。
クラスメイトの男子生徒が死に、主人公の手元には「友人の姫野に、山岸小夜子と関わらないよう伝えて欲しい」と記された手紙と、主人公の名字が記された謎の金属プレートが残されます。
調べると、どうも山岸という女子高生も死んでいるようで、主人公は友人の姫野と彼らの死について調べるのですが……というお話でした。
最初ははっきりしない感じで、このままローテンションでぼんやりと話が進んでいくのか、と思いきや、最後は急転直下の盛り上がりでした。
森博嗣作品は、意外とクライマックスでの格闘が多い気がします。
何故、『もえない』というタイトルになったのかは、物語の一番最後に明かされるのですが、なかなかスタイリッシュ。
思わずにやついてしまいました。

そうそう。
この作品、装丁がとっても綺麗だな……と思ったら、『スカイ・クロラ』シリーズと同じデザイン事務所の作品だったみたいです。
いい仕事してますね。

 『蔵書まるごと消失事件』『アマチュア手品師失踪事件』

蔵書まるごと消失事件 (移動図書館貸出記録1) (創元推理文庫)

蔵書まるごと消失事件 (移動図書館貸出記録1) (創元推理文庫)

アマチュア手品師失踪事件 (移動図書館貸出記録2) (創元推理文庫)

アマチュア手品師失踪事件 (移動図書館貸出記録2) (創元推理文庫)

移動図書館貸出記録」と副題のついたシリーズものです。
舞台は、イギリス……といっても、北アイルランドのタムドラムという小さな街(はっきり言って田舎)。
主人公は、29歳の冴えない司書の青年です。
ひょんなことから、この町の図書館司書として採用された主人公ですが、長旅の末に辿り着いた図書館は、閉鎖されていました。
その代わり、移動図書館サービスを始めるとのことでしたが、肝心の蔵書が丸ごと無くなっていて……というのが、第1作の『蔵書まるごと消失事件』です。
蔵書も無事見つかり、晴れて移動図書館司書となった主人公。タムドラムにある唯一絶対の百貨店「ディクソン&ピカリング」の記念展示を準備中に、百貨店の経営者が失踪し、金庫に入っていた売上金が盗まれてしまいます。しかも、何故か犯人として疑われたのは主人公で……というのが、第2作の『アマチュア手品師失踪事件』です。

このシリーズ、何が新しいって、主人公のキャラ設定です。
イスラエルという名前のユダヤ人(29歳、♂)で、小太りなのに菜食主義者。はっきり言って、全然冴えないです。
推理小説にありがちな、少し影のある格好いい探偵では全くありません。
更に、舞台となるタムドラムに住む住人達も、一筋縄ではいかない人たちばかりです。
言動が、どうもズレていて的はずれなのです。
特に激しいのが、主人公の相棒的な存在である、タクシー運転手のテッド。
第2作の後半では、主人公と2人で失踪した百貨店経営者の行方を追う珍道中を繰り広げるのですが、それがかなりの勢いで面白かったです。
どちらの作品も、ミステリ的要素はかなり薄いですが、それを凌駕する登場人物達のズレたやり取りに、要注目ですね。

 『東京バンドワゴン』

東京バンドワゴン (集英社文庫)

東京バンドワゴン (集英社文庫)

東京下町を舞台に、明治時代から続く老舗古本屋の人々(4世代家族!)を巡る、日常の謎系ミステリです。
家族の構成メンバーは、非常に個性的。
しかも、語り手は既に亡くなっているお祖母さん!
下町らしく、ほのぼのとした気持ちになる物語でした。
個人的には、最後のお話の中のある一点が非常に気になりましたが。
……法的にどうクリアしたんだろう?

 『今宵、バーで謎解きを』

今宵、バーで謎解きを (カッパ・ノベルス)

今宵、バーで謎解きを (カッパ・ノベルス)

鯨統一郎さんの作品です。
何というか、いつも通りのとぼけたというか、トリッキーというか……な作風でした。
ギリシャ神話をモチーフに、大学院生になった桜川東子嬢が、不可思議な事件の謎をバシバシ解決しちゃいます。
そのギリシャ神話との関連づけも、こじつけのような、こじつけじゃないような。
そこら辺が、鯨統一郎さんの持ち味なのですが。


この作品の最大の魅力は、美味しいワインを飲みながらあ〜でもないこ〜でもないとくだを巻いているヤクドシトリオの楽しそうな会話(主に昔話)なのかも知れません。