『クレィドゥ・ザ・スカイ』〜シリーズの主人公は、一体誰だったのか?

クレィドゥ・ザ・スカイ―Cradle the Sky

クレィドゥ・ザ・スカイ―Cradle the Sky

スカイ・クロラ』から始まったシリーズの最終作(というか4冊目の本)です。
私は、森博嗣さんを敬愛してやまない訳ですが、その中でも、この『スカイ・クロラ』シリーズは、珍しくミステリィじゃないのに大好きでして。
何よりも、戦闘シーン*1の迫力がある。
そして、登場人物も言葉も、とても純粋で綺麗なのです。
彼らは、職業パイロットで、(心理的な意味で)空でしか生きられません。
上手く表現できないのですが、その尖った感じが何とも言えず心に響くというか……。
私はいつも、このシリーズの本を読み終わると、戦闘機に乗りたくなります。


この作品は、「僕」が病院のベッドで目覚める所から始まります。
それ以外は、「僕」の名前が何であるかとか、「僕」がどういう状態にあるのかとか、全て白紙です。
お恥ずかしいことに、私は前作『フラッタ・リンツ・ライフ』の内容をほとんど忘れていたため、同じく白紙の状態で本作に望みました。
だって、前に読んでからけっこう時間が経ってしまったうえに、前作の「僕」があまり好きじゃなかったから……。


「僕」は病院を抜け出し、そこから物語は動いていく訳ですが。
実は、最後まで、「僕」の名前が何て言うのか、出てこないのです。
もちろん、それを推測する材料はあるため、「僕」の正体は誰なのか分かるといえば分かるのですが。
そういった意味で、最初のひと読みでは、「僕」の正体に気を取られて、純粋に物語を楽しめないかも知れません。


この作品を読んで、『スカイ・クロラ』における草薙水素の形は、本来あるべき彼女の姿ではなかった、というか、『ナ・バ・テア』から始まって『クレィドゥ・ザ・スカイ』で終わる一連の出来事があったからこそああいう形になったというか……。そういう風に、私は理解しました。
またしても、水素さんに対する見方が変わったような気がします。
私的には、『スカイ・クロラ』のカンナミユーヒチ(漢字がわからん……)が一番好きなのですが、こうやってみると、一連の5作品は、草薙水素の物語なのかも知れないな、と思いました。

最後に、気に入ったフレーズを引用しておきます。*2

なんと、地上の不自由なこと。
そう、地上には、逃げ場がない。
どこへも逃げられない。
もうこれ以上墜ちられない。

*1:このシリーズは戦闘機乗りのお話です。

*2:いつもは表紙に引用されているフレーズが一番気になるのですが、今回は違いました。センスが変わったのか?