『蟹工船』を読みやすくする方法を色々と考えてみた

蟹工船・党生活者 (新潮文庫)

蟹工船・党生活者 (新潮文庫)

何となく『蟹工船』が気になったので、部屋に積んである本の山から発掘して読んでみました。
樺太沖で蟹を捕って加工する船*1で働く者達の過酷な労働状況、資本主義が内包する資産家vs労働者の構図がハッキリと鮮やかに描かれていて、確かに、現代のワーキングプア問題に通じるものがあるなぁと感心。
プロレタリア文学にカテゴライズされる作品ですから、当たり前と言えば当たり前ですが。
それにしても、労働力を不当に搾取され、時には命の危険にも晒される彼らの労働条件には、ビックリです。
本当に、こんなに酷い船があったのでしょうか?
小説だから、多少は誇張されていそうな気もしますが……。
しかしながら、資産階級の代弁者=監督に怯えつつ、犠牲者も何人か出しながら過酷な労働に耐えていた労働者達が、あるきっかけで団結し、勇気を振り絞って資産階級に立ち向かっていく過程は、感動ものです。
健気な彼らを応援したくなり、ついでに自分も頑張ろう、と思える本です。


といった感じで、とてもためになる良いお話だと思うのですが、何しろ書かれたのは今から80年前です。
言い回しが固いし、文章が長いし、読みづらいです。
活字中毒で本を日々乱読している私でも読みづらかった*2のだから、普段あまり本を読まない人であれば、せっかく買っても途中で挫折してしまうのではないでしょうか。*3


そこで、そんな皆様にも楽しく読んでいただくための一工夫を、幾つか考えてみました。
ちなみに、マンガが出ているからそれを読めばいいじゃん?という御指摘は、なしの方向でお願いします。
あくまで文章にこだわって、どれだけ読みやすくできるか、という実験ですので。

参考までに、原作の冒頭部分を載せておきます。参照:青空文庫『蟹工船』

「おい地獄さ行(え)ぐんだで!」
 二人はデッキの手すりに寄りかかって、蝸牛(かたつむり)が背のびをしたように延びて、海を抱(かか)え込んでいる函館(はこだて)の街を見ていた。――漁夫は指元まで吸いつくした煙草(たばこ)を唾(つば)と一緒に捨てた。巻煙草はおどけたように、色々にひっくりかえって、高い船腹(サイド)をすれずれに落ちて行った。彼は身体(からだ)一杯酒臭かった。
 赤い太鼓腹を巾(はば)広く浮かばしている汽船や、積荷最中らしく海の中から片袖(かたそで)をグイと引張られてでもいるように、思いッ切り片側に傾いているのや、黄色い、太い煙突、大きな鈴のようなヴイ、南京虫(ナンキンむし)のように船と船の間をせわしく縫っているランチ、寒々とざわめいている油煙やパン屑(くず)や腐った果物の浮いている何か特別な織物のような波……。風の工合で煙が波とすれずれになびいて、ムッとする石炭の匂いを送った。ウインチのガラガラという音が、時々波を伝って直接(じか)に響いてきた。


実験1 表紙をラノベ風イラストにし、挿絵を入れる(正攻法編)
太宰治人間失格』がこの方法で大成功したことは、皆様もご存じのとおりです。*4
表紙を現代風のイラストにして、挿絵も入れれば、中身が同じでも、受ける印象はだいぶ変わってきます。
表紙のイラストが格好良かったり可愛かったりしたら、「よし、読むぞっ!」という勇気が出ます。
イラストレーターは、誰がいいですかね?
私、不勉強で、最近流行のイラストレーターさんを全然知らないのです(汗)
……男ばっかりの話なので、ジョジョの人とか?*5
敢えて美少女イラストレータ*6を起用するのも有りかと思いますが。


実験2 改行を多くし、漢字を現代風にして、文章を読みやすくする(一石二鳥編)
源氏物語の現代語訳と理屈は同じです。
読みづらい昔風の文章・漢字を現代風にアレンジし、改行を多くすることによって、圧迫感を解消します。
原作と雰囲気が変わってしまうので少々問題ありですが、これでかなり読みやすくなると思われます。
ついでに、ちょっとあれな描写*7を減らして、爽やか感をアップさせたり。
底本を同時収録すれば、読み比べも出来て一石二鳥です。
あらかじめストーリィーが頭に入っていれば、きっと原作でも読み通せるはず。


実験3 男ばかりの話なので、登場人物を思い切ってアッー!な関係にする(腐女子編)
ここからは、内容の改変にも踏み切ります。
まずは、取っつきやすくするためにBL風アレンジです。
本文でも、実はそれっぽい(というか明らかにそれな)シーンがあるので、これは改変しやすいと思います。
焦らすために、まずはプラトニックな関係からスタート。
主役級の個性の強い登場人物が出てこないので、カップリングに苦労しそうですが、漁夫が駆逐艦の士官に一目惚れするとか、監督×水夫とか、船長×船医とか、いかがでしょう?
そのうちに、監督が己の強い立場を利用してみんなに手を出し、蟹工船の中は三角関係四角関係が入り乱れ、愛憎の縺れから、ついに労働者が団結して監督を襲う!みたいな。
……読みたくないかも。


実験4 時代設定を現代にする(派遣編)
蟹工船の乗組員の斡旋屋をブラックな派遣会社にして、舞台を某工業製品製造工場に。
船長=工場長、憎まれ役の監督=派遣会社からやって来たお目付役(高給取り)、日本軍の護衛艦=本社。
労働者役はもちろん、ラインで働く派遣社員
……現実感がありすぎて、気が滅入りそうですね。


実験5 舞台を宇宙にする(SF編)
時は西暦2200年、地球。
人々は、環境汚染が進んで資源が枯渇した地球を捨て、居住可能な惑星を探し、宇宙へと進出するようになっていた。
宇宙開発関係は、誰もが認めるブラック職種。
中でも、宇宙開発に必要な資源を採掘する宇宙船の乗組員は、まともな職業に就けない人々が集まる吹きだまり。
給料も安く、危険で、過酷な労働を強いられるのだった……。
今日も、銀河系のはずれにある資源豊富な惑星へ向けて採掘に旅立つ宇宙船が一艘。
労働者達は、その惑星で、思いがけなく宇宙人との出逢うことに。
宇宙人と交流を深めるうちに、彼らは地球ではすっかり忘れ去られた「共産主義」という概念を知り、ついに反乱を起こす!
ところが、宇宙船が突如彼らを置き去りにして行ってしまい……。
新ジャンル・プロレタリアSF登場!
……ここまで妄想して、頭が疲れました(=_=)


実験6 文章をケータイ小説風にする
ケータイ小説風の文章に改変して、ナウなヤングのハートを狙います。


(例1)『恋空』風アレンジ

「あ〜!!チョーお金ないし」
待ちに待った出港日。
漁夫はいつものように
蟹工船のデッキでタバコを吸う。
蟹漁や缶詰作りは面倒。
だけど同じ船で仲良くなった雑夫と水夫と一緒に賄いを食べるのが唯一の楽しみなのだ。


=中略=


農家の三男坊に生まれてから平凡な生活を送ってきた。
普通に友達もいた。
普通にアルバイトもした。
就いた仕事は3つ。
多いのか少ないかなんてわからない。
だけど共通してるのは
どれも短期間で辞めてしまったということ。
就職活動なんて知らない


知ってるのは派遣の仕事。
ただ一つだけ。


就職なんて
しなくてもいい。
そんな中…
蟹工船に出会った。


テラスイーツ。
でも、意外と違和感ないでしょうか?いや、おかしいか……。


(例2)『あたし彼女』風アレンジ

アタシ


漁夫


歳?


30


まあ今年で31


仕事?


まぁ


当たり前に


してる


てか


仕事ない訳ないじゃん


みたいな


仕事は


普通


てか


アタシが働いて


あげてる


みたいな

スペースが!勿体ない!!
普段は絶対にあり得ない改行具合で、罪悪感が……。



いい加減疲れたので、そろそろ終わりにします。
ああ、また下らぬエントリを書いてしまった……。

*1:蟹工船は、船でも工場でもないため、法律の規制が緩く、好き放題出来たみたいです

*2:何回か挫けそうになりました。

*3:ベストセラーを買うだけ買って読まない人も多いとか……。

*4:蟹工船』は既に売れているので、これ以上売れる必要はないかも知れませんが。

*5:伊豆の踊子の表紙を描いたんでしたっけ?

*6:いとうのいぢとか?

*7:労働状況があれなので、船内がかなり不潔なのです